故郷

坂井市U地区報恩講廻り10軒を勤める。午後に伺ったT様宅の床の間の違い棚に置かれた短冊の句が、毎年お参りするたびに心にかかっていた。

  故里も 麦笛吹きし 日も遠く   みのる

先年なくなられたお父上の旧制福井中学時代の友人の作だと奥様が教えてくださった。福井を離れ東京に職を得てそれなりの社会的な地位を獲られたその友人が、福井中学時代の友人であったT様のお父上に、福井で行われた同窓会に帰省した折に書いて下さったものだという。

故郷を離れて暮らすものにとって、そしてその故郷が自然豊かな田舎であってみれば、この句は懐かしく心に沁みる。まして残りの人生のことを深く意識せざるをえない年齢にさしかかった自分にとって、お会いした事はなくともこの≪みのる≫という名の作者の心情はよく分かる。

「いざ帰(い)なん、魔境にはとどまるべからず」【定善義】
「いざ帰(い)なん、他郷にはとどまるべからず、仏に従ひて本家に帰せよ。」【法事讃】
と善導大師は強烈な求道心を表明された。我々が願うべき世界は如来の浄土であり、この娑婆世界は厭い離れるべき世界でしかないと。

悲しいかな、しかしここしか知らない自分はこの娑婆世界が限りなくいとおしく懐かしいのです。これが凡夫の情というものでしょう。なればこそ仏(ぶつ)かねてしろしめして、そのことも見抜いた上でその凡情を抱えたまま、私のいのちを引き受ける世界が浄土でしたよと、親鸞様はお示しくださいました。
安心して煩悩の旧里・故郷を懐かしく思わせていただきます。子供の頃の無邪気に麦笛を吹いて遊んだあの頃を思い出させていただきます。
安心して懐かしむ事ができるのも、このいのちのゆくえをはっきりと知らしていただいたればこそ。
凡夫の私には故里と浄土の限りなき優しさがしみじみあり難いのです。

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